弥勒下生経変相図は、「弥勒下生成仏経」に基づき、釈迦入滅後、56億7千万年後にこの世に下生し衆生に説法する弥勒菩薩の姿を描いた変相図で、知恩院(ちおんいん)所蔵を含め他、妙満寺所蔵、親王院所蔵の計3点が知られているのみである。
画面の中央には弥勒仏と脇侍菩薩が蓮華を踏んで倚坐しており、三尊の周囲には帝釈天、梵天、十大弟子、十二神将が左右同数に分かれて配置されている。上の部分には中央の天蓋を中心として、宝樹、雲に乗った五体の仏と奏楽天女が同様に左右同数に表現されている。なお、知恩院所蔵は親王院所蔵のものと転写関係にあったと推測でき、高麗仏画の制作にあたって絵師たちが、数少ない図像を転写して伝統を継承してきたことを示す貴重な作例といえる。
現状、本図には強い折れなど少なからぬ損傷があり、掛幅の開閉に際して本絹等が欠落する恐れがあったため、寄託先の九州国立博物館では2010年の展覧会出陳以降は展示を控えており、適切な状態で展示を行えるための保存修復の緊急性が関係者の間で認識されていた。本年度から4ヵ年計画で修復を図る。 |