像高 83.2cm

 木造薬師如来坐像(やくしにょらいざぞう)

  本像は、今は廃寺となっている豊原寺に伝わる木造薬師如来坐像である。豊原寺は大宝2年(702)に開創、天長年間(824〜834)に再興された。その後延暦寺末寺となり、北陸ゆかりの武将などから寄進を受けて勢力を拡大し、盛時には「豊原三千坊」と呼ばれたという。

  大きく突き出た腹部や面部から後頭部への奥行き、高い膝等9世紀以来の平安時代初期の仏像の特徴を濃厚に持つ一方で、伏目がちな目、幅広い耳輪の形状、浅い彫りでやや形式的に流れる衣文等からくみ取れる穏和な感覚は、10世紀以降に下がる特色と捉えられ、和様へと向かう途上の一例と考えられる。また、細くこまかい衣文や額が広く見える独特の風貌等、明らかに中央風の像とは一線を画し、地方色を濃厚に示す個性的な作品である。そのため、平安時代の越前における中央での作風の受容や当地での造像活動を考える上で、極めて貴重な像で歴史的・文化的価値が高い。

  修理銘から享保年間(1716〜1736)に修理されたことがわかるが、木質が風化し著しい虫損穴が見られ、彫刻面の各所に陥没箇所が発生するなど経年の劣化が激しい状況にあり、全面的な修復が必要となっている。


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