直径 23.5cm

 懸仏(かけぼとけ)

  もと御正躰(みしょうたい)と呼ばれた懸仏は、ご神体の鏡に由来する円形鏡板に神々の本地仏を著した神仏習合を体現する宗教遺品であることから、銅を素材にして仏・菩薩を表現したものが一般的である。そうしたなか、この菅原神社所蔵の火宮(ひのみや)大明神懸仏は、鋳鉄製に加えて神像を現した鎌倉時代の希少な遺品である。その表には、束帯姿で上畳に坐し、笏をもって威儀を正す男神像が細い陽線をもって描き出され、裏には、上方左右に吊り手を鋳出し、中央に「嘉元三年七月九日/火宮大明神 馬志き/本江久亀屋村」の銘文が三行にわたって陽鋳されている。この銘文から、年紀のみならず神名ならびに奉仕した荘園の村名がわかり、その史料的価値を高めている。

  しかしながら、御正躰という性格から長らく秘匿され適切な管理が行われてこなかったため、錆による劣化が著しく、放置すればひび割れによる銘文の剥落が避けられない状態になっている。さらに、表面に何らかの油脂成分の付着も認められ、その本質的価値を損なわないためにも修理が必要となっている。


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