葡萄蒔絵螺鈿聖餅箱(ぶどうまきえらでんせいへいばこ)
我が国は1543年の鉄砲伝来、1549年のイエズス会フランシスコ・ザビエルの来日以降、徳川幕府による鎖国令までの間、諸外国との間で交易が行われ、生糸、絹織物、陶器などが輸入され、銀、漆器などが輸出された。この時期にポルトガルを経由して欧州に輸出された漆器類は「初期輸出漆器」と呼ばれ、本聖餅箱も国内に数件残存するそうした漆器の一つである。 しかし本品は、一度輸出した後国内に還流したものではなく、制作後400年以上国内に残存した稀有な作品である。なお、東慶寺(とうけいじ)に保管されている経緯は不明である。「初期輸出漆器」特有の平易な技法により制作されているものの、漆塗りに蒔絵、螺鈿を施した当時としては高級品に属する。 経年による、塗膜の汚れと紫外線による表面の劣化が顕著で、打損も見られる。螺鈿部分は貝の剥落、剥離、貝周辺の塗膜の傷みも進んでいる。