納入状況

 

文永五年七月十八日の年紀が記された納入品  

木造十一面観音立像像内納入品

  当史料は、令和2年(2020)から同3年にかけて行われた「木造十一面観音立像保存修理事業」(住友財団助成)で像を解体したところ、本躰躰幹部内刳(うちぐ)り下部から発見された納入品である。取り出された納入品のうち比較的開封が容易な一部の文書について内容の確認作業を行ったところ、文永5年(1268)7月17日・18日の記述や「一日観音御勧進」等の墨書銘が確認され、本像が文永5年7月17日・18日に、いわゆる「一日造立仏」として造像されたことが明らかになった。「一日造立仏」は、一日のうちに仏像制作を造立から供養まで行うもので、鎌倉時代の奈良で盛んに行われたことが文献史料からわかるものの、そのことが確実な現存遺品はわずかで、本像が制作時期が裏付けられたものとしては最古例となる。納入文書からはさらに、本像の造像が興福寺で企画された可能性が高いと判断できるなど、本像の制作年代、制作地がわかるだけでなく、南都の特色ある仏教信仰のありようを示しており、鎌倉時代彫刻史を知る上でも非常に価値ある発見といえる。このため、本納入品は、仏像本体と合わせて、令和5年(2023)に重要文化財に指定された。

 しかしながら、納入品は紙同士が固着して開封できないものも多く、虫損や紙質の劣化も著しいことから、状態を安定させ開封調査や安定的な保管を可能な状態にすることが急務となっている。3ヵ年計画で修復を行っており、本年度は2年目となる。  


©2024 The Sumitomo Foundation
前ページに戻る